どんな授業でしょう?! 見てきました。
出張に行ってきました。向かった先は愛知県蒲郡市。以前からコンタクトを取っていた愛知工科大学自動車短期大学の先生から、うちの留学生向け授業を見ませんか、とお誘いがかかり、是非に! と飛行機・電車を乗り継いで赴きました。ちなみに去年も行ったところです。前回は教材を色々と見せていただき、それを作られた先生とお話ができたというところまでで、留学生向け授業は見ていませんでした。
担当は同大学の日本語担当教員……ではありません。自動車工業学科の先生です。もちろん自動車・自動車整備のプロフェッショナル。日本語・日本語教育のプロフェッショナル……では、ない。そんな先生の「日本語自動車整備講座」という授業だったんですが……
すごかった。面白かった。
どういう授業だったかというと、大まかな流れとしては
①先生の作ったワークシートをグループで解く
②全体で答えの確認
③別のワークシートをグループで解く
④また全体で確認
こんな感じです。シンプル。
①のワークシートの内容は、こういう感じで問題が並んでいます(例としてひぐれが作ったものなので、実際の内容と同じではありません。形式の雰囲気程度に)。

学生さんたちはまず、下に並んでいる4つの漢字熟語(始動・原動・運動・活動)の読みをスマホカメラ認識→AIで確認して、別に持っている『語彙リスト』から当該の語を探します。『語彙リスト』には2字の漢字熟語が一覧で載っており、その読み方・簡単な意味の説明(日本語)が書いてあります。その『語彙リスト』に書いてある語の読み方と意味の説明を選択肢それぞれの中に書き写していく。さらにその中から、上の問題の答えにふさわしいものをひとつ選んで埋める。こんな流れです。作業が済むと、以下のようになります。

そしてそれを、個人作業ではなくグループでやります。グループごとにやらせて、できたら「できました!」と先生を呼ぶ。1番に終わったグループメンバーには平常点にポイント加点。と、こういう流れです。全グループ終わったらみんなで答えをチェック。チェックの中では上の問題(「●」部)の答えだけでなく、選択肢4つについても書き写した意味の説明がちゃんと読めるかな、と確認をしていくんですが、圧巻がここから。
上の問題、自分が作った例は下手くそなので一般日本語の趣が強いですが、問題で選択肢になる語も、『語彙リスト』に含まれる語も、全部自動車整備を学んでいく中で必要になる学ぶ言葉なんですね。なので、この活動を通じて当該の語・読み方・意味を確認することが、自動車・自動車整備という専門分野の理解に繋がるという仕組みです。
おまけに、全体の確認の時に先生が話を膨らませていくんです。
たとえば「粘度」という言葉が出てきたときには、「水とはちみつではどちらが粘度が高いか」という問いかけから、エンジンオイルにも粘度があるという話に繋がり、では寒い地域では粘度の高いオイルと低いオイル、どちらがいいかという質問をし、冷えて固まらないよう、粘度が低いほうがいいよね、という話につなげていく、というような。こうしたちょっとした問いかけ・話の膨らみが、あらゆる語に関して出てくる。
日本語の授業でありながら、自動車整備についての知識も深まっていくという、専門日本語教育の理想形のような授業でした。
やはりこれは「日本語教育だけをずっとやってきた人間」にはできないなあということを、まさにそういう「日本語教育だけ」の自分としては身につまされっぱなしの時間でした。先の記事で「自動車整備のプロが日本語教育のノウハウを備えたら完璧なのでは」みたいなことを書いていましたが、本当にそれが形になったようなものでした。
机をゆっくり押して動かす様子と、ドンッと叩いて同じ動かす様子の2種類を見せて「衝撃」はどっち? と問いかける中にも、「同じ物体を同じ距離動かすからエネルギーは同じ。だけど、掛かった時間は違う」というような説明をなされていて、随所に光る物理・工学の雰囲気もまた、一般的な日本語教育の授業とは違う雰囲気がありました(ちなみにそこから、エアバッグ作動の仕組みについてお話がありました。これもまた面白かった……。先生曰く、エアバッグの展開は火薬による瞬間的な膨張であり、そんなエアバッグに囲まれた状態で車に乗っている我々は「いつもショットガンに狙われているようなもの」だそう。考えたこともなかったですね)。
あと、学生さんたちのレスポンスもすごくよかった。東・東南・南アジア地域出身の26人クラスとなかなかに大所帯で賑やかなんですが、ただただやかましいのではなく、いい意味で「わいわい」していました。これはグループワークを取り入れたり、加点ルールを入れたりと様々な仕掛けづくりをする先生の手腕によるものであり、学生さんの人柄によるものでもあるけれど、その上で、これまでの授業の積み重ねの中できちんとラポールができているんだなあということを思わされました。先生の問いかけにもあれこれと声があがり、先生もそれにどんどん応じて盛り上がっていく。ものすごくいい雰囲気の授業でした。
自分は日本語教育の畑で育って、そこから自動車整備分野に手を出そうとしているわけですが、今回の授業を見て、「日本語の授業って『日本語教師』だけのものじゃないな……」ということをひたすらに考えていました。どうするよ、登録日本語教員にもなって……。
ちなみに③のワークシートは、実際の自動車整備士養成教材に掲載されているグラフから文字情報が虫食いになっているもの。教科書をめくりまくってそのグラフを見つけよう&穴埋めをしよう! という流れ。「とにかく教科書を開かせる」という狙いがあるそうです。はじめの一歩というか、やはりとにかく触れてもらうって大事ですよね……。
そんなふうに濃い授業見学をさせて頂いたあとは、その日特別に日産さんが来校して、在校生に向けた特別講義をしてくださるというイベントにもお邪魔させてもらいました。講義のために10台以上が持ち込まれており、それぞれのクルマをじっくり見よう! という活動もされていました。自動車に関する研究をしている以前に普通に車好きの自分としては、同行して頂いた先生にたくさん素人質問をし、ただただ学生さんよりもはしゃいでしまっていたような気もします。写真は、持ち込まれていたGT-R(R35)。エンジン始動の音が思いの外エレガントだった。新型フェアレディZも来ていて、運転席に座らせていただけました。何をしに行ったことやら。

そんな具合に、学校見学の日はあっという間に過ぎていきました。
で、ところでなんでそもそも学期の真っ最中に、自分の授業をわざわざ休講にして愛知まで飛んでいったのかということなんですが、実は、こちらの愛知工科大学・同大自動車短期大学は今年度で新入生の募集を停止してしまったんですね。
ということで、上に挙げた1年次留学生向けの日本語の授業はこの学期、もっと言えば自分が見せて頂いた回が最終回。そこで、「最後のチャンスに是非観にいらしてください」とお声がけをいただき、ラストチャンスを逃すわけにはいかないぞ、と滑り込みで間に合わせた。こういうわけでした。
学校といえど慈善事業ではなく、やはり経営的判断は(特に私学では)つきものです。昨今の少子高齢化の波はどうしようもない、と言ってしまえばそれまでなんですが、それにしてもやはり、こんなに素晴らしい授業が、もう「ない」の……!??! いや、それ以上に、世間では自動車整備士自体が不足している、そんな中で日本人・外国人に限らず養成期間が閉じてしまうの……!?????
というのは、なかなか感傷的につらいことでもあり、社会的にもなかなか大きなインパクトのあるものです。というわけで、「こんな授業を見せて頂いた!」という今回のブログ記事も、ややしっかりめに書かせていただきました。こんな取り組みがあったんだよ、ということはやはり書き残しておきたかった。
あらためましてお世話になった先生方、学生の皆さん、本当にありがとうございました。
おまけ
前回は蒲郡名物ガマゴリうどんをいただきましたが、今回はお隣の豊橋市に足を伸ばして、豊橋カレーうどんを頂いてきました。カレーうどんの中にとろろごはんが入っているという謎の二段(三段?)構え。名産(全国シェアの約50%らしい)のうずらの卵も入っていて、1杯でなるほど満腹です。おいしゅうございました!






