日暮れ、道遠し

日本語教育をやっているひとです。見たこと聞いたこと考えたことなどについて。

ハノイ工科大学・越日スペース竣工式・開所記念シンポジウム

行ってきましたよ! 初のベトナムに!

というわけで、ハノイです。ハノイ工科大学にて越日スペースなる施設が完成&オープンするということで、その竣工式(9/18)と開所記念シンポジウム(9/19)に行ってきました。自分の出番が何かあったのかというと別にそういうわけではなく、完全にただのお客さんです。

 

越日スペース、こんな感じ。スペースというかビルディングですね。

3階建て。まるごと新築です

 

中はこんな感じ(竣工式バージョン)

1階です

 

1階奥には茶室スペースもあります。お庭もある。

これも1階。上にあげた写真の金屏風の奥のところです

 

2・3階は授業ができる教室スペースです。こちらについて写真はありませんが、ちらっと覗いてみたところ、明るくシンプルな教室、という感じでした。

 

越日スペースと言うからには、ベトナム(越南)・日本です。錚々たる日本企業の資金協力によって完成しています。ハノイ工科大学は、これまでも多くの(1,000人近くの!)卒業生が日本企業で働いているそうで、今後も同施設が様々な形で教育・情報交換などに使われることだろうと思います。

 

自分が今回のイベントの開催を知ったのはやや巻き戻って2026年3月、大阪大で行われたシンポジウム(「理工系高等教育機関における日本語・日本文化教育の現状と展望」)でのことでした。そこで登壇されていたハノイ工科大の先生が越日スペースと今回のイベントについてお話をされていて、なるほどこれは面白そうだ、また、工科大学ということで自分の自動車整備的研究も何か繋がるかも! ということで、割合に下心満載で出かけていった、というのが正直なところです。

竣工式はセレモニー的な性格が強く、駐ベトナム大使によるお話があり、協賛企業等のお歴々のお話がありテープカットがあり、鏡開きがあり樽酒が振る舞われ、といったもの。

 

樽酒をベトナムに持ち込むにあたっては、関係各位のご苦労があったとのこと
(税関的な意味で)。

 

翌日のシンポジウムは朝からぶっ通しで脳みそを使いまくるイベントでした。今回の竣工式・シンポジウムについて日本側の取りまとめを行っている大阪大の先生方の発表が中心で、自動車整備的日本語教育研究を行っている自分にも得るものが非常に多くありました。やはり、理工系の日本語教育という大きな図も大事だし、その中でのバリエーションの異同をきちんと見つめることも大事、そしてまたその中には様々な縮尺で比べ得るものがあるのだなあ、ということを痛切に考えさせられたのでありました。自動車整備に関する研究を行うことによって他の分野への貢献にも繋がるだろう、という自分の信念がより強まったようにも思います。しっかり研究をしていかねばなりませんね。

 

今回は、メインのイベントの他に、長崎大学の海外拠点のひとつでもある長崎大学熱帯医学研究所ベトナムプロジェクト拠点(HP)を見学しに行ったり、

National Institute of Hygiene and Epidemiology(国立衛生疫学研究所)。長崎大の拠点はこの中に入っています。

 

大阪大とハノイ工科大の共同施設である接合科学研究所HUST-OUも阪大組の見学に混ぜてもらう形で一緒に見させていただきました。マジでありがたい。大感謝です。

接合科学研究所HUST-OUの、壁。もうちょっとまともな写真はなかったんかい、というツッコミが聞こえてきますが、マジでこれだけです。すみません……。
中には、立派な工作機械がたくさんありました(小学生並みの感想)。

 

そんなハノイ、もといベトナム自体が初の訪問でありました。バイクが多いことは聞いていたけど本当に多いんですね。そして街中の植物の存在感が強い。

 

ハノイの街の中にて。雨も降って、みずみずしい。

 

フォーもバインミーもおいしかったです。個人的ナンバーワンは、コムザンズアボー。炒めたお米に、肉と高菜(本当に、高菜)の炒め物が添えられているもの。長崎大ベトナム拠点の方に教えられてごちそうになったのですが、びっくりするくらいおいしかった。うまみの爆弾。

 

 

と、お仕事についてもそれ以外についても充実したベトナム訪問でありました。

日本語教育に関わっているとベトナムの方と関わることも色々な形であり、ずっと行ってみたい国のひとつでした。今後はただのお客さんでなく、自分の仕事としてお邪魔したいですね。

 

『留学生のための自動車整備用語集』(頒布版)が、できました。

無料ですよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

こちらからどうぞ!!!!!!!(Googleフォームに飛びます)!!!!!!!

 

forms.gle

 

と、いうことで。できました。自動車整備的二字漢字熟語の「出る順」315語です。

元々は愛知工科大学自動車短期大学の掛布知仁先生が製作された『留学生のための自動車用語集』(参考)があり、それを元にこちらが(掛布先生の許可を得た上で)あれやこれやと魔改造した、という代物です。

「出る順」と言ったように、教科書・国家試験(過去10年)の中で出てくる順に315語をピックアップし、それをさらに7つのテーマ別の章に45語ずつ分けて載せてあります。

 

サラッと書いてはいますが、思いの外大変でした。もちろん最初の分析のための教科書・試験の書き起こしもしんどかったけど、「そこから二字熟語だけ選んで上から入れてきゃいいんでしょ~~~?」なんて、そんなわけはなかった。自分の見通しの甘さに足元を掬われてばかりです。その上、説明文も書いて(自動車整備分野の人間でもないのに!)、それを使った自動車整備チックな例文も全部に付けて(自動車整備分野の人間でもないのに!)、その上、一気に315語勉強していくのは大変そうだから章に分ける? きれいに分かれるものなの?? んなわけないじゃん??? ちまちまちまちまと、め、めんどうくせえ……誰が言い出したんだこんなもの作るって……

 

(TopGear Season14 Episode5 より)

 

てな具合です。

くわしくは終わりの方の解説ページに書いてありますので、そちらをどうぞ。

ちなみに、ひとりで勝手に作って勝手に配ったる! と息巻いていましたが、語義と例文については上述の掛布先生が確認・修正をしてくださいました。この掛布先生、今年の7月にお邪魔した授業をされていた先生でもありました。まこと頭が上がりません。

 

そんなわけで、出来上がったのが今回の「頒布版」です。

「頒布版」ってことは、「そうじゃない版」もあるの? って? ええ、そりゃあもちろん……。

今回作り上げたもので、自動車整備分野における「まずはこれだけ」を示せたのは結構大きなことだと思います。ちなみに、今回の315語で、延べ語数的に全二字熟語の80%以上をカバーできます(とはいえ、残りの20%弱が要らんのかと問われれば全然そんなことないのが専門日本語教育の難しいところですが)。しかし、現場の先生、特に日本語教育の心得のない先生方からしたら「こんなん渡されても、どうせえっちゅうねん」というのが正直なところだと思います。となると必要なものは何か?

そうですね、アクティヴィティ(練習問題)です。

というわけで、今後はこの教材とセットで使える問題集を鋭意制作してゆくこととなります。そしてそれを、『自動車整備のための漢字の教科書』(仮題)として出版することを目指します!

 

と、ぶち上げてはいるもののぶち上げただけです。「この指とまれ」でひとりで突っ立っているに等しい。ご関係各位のみなさま、いかがです? いかがですか……???

 

(参考)

掛布知仁、巨藤誠(2025)「留学生に対する自動車整備教育への導入教育について」『愛知工科大学紀要』22, 68-72.

「日本語教師」にできない日本語の授業

どんな授業でしょう?! 見てきました。

 

出張に行ってきました。向かった先は愛知県蒲郡市。以前からコンタクトを取っていた愛知工科大学自動車短期大学の先生から、うちの留学生向け授業を見ませんか、とお誘いがかかり、是非に! と飛行機・電車を乗り継いで赴きました。ちなみに去年も行ったところです。前回は教材を色々と見せていただき、それを作られた先生とお話ができたというところまでで、留学生向け授業は見ていませんでした。

higureyasan.hatenablog.jp

 

担当は同大学の日本語担当教員……ではありません。自動車工業学科の先生です。もちろん自動車・自動車整備のプロフェッショナル。日本語・日本語教育のプロフェッショナル……では、ない。そんな先生の「日本語自動車整備講座」という授業だったんですが……

 

すごかった。面白かった。

どういう授業だったかというと、大まかな流れとしては

①先生の作ったワークシートをグループで解く

②全体で答えの確認

③別のワークシートをグループで解く

④また全体で確認

こんな感じです。シンプル。

①のワークシートの内容は、こういう感じで問題が並んでいます(例としてひぐれが作ったものなので、実際の内容と同じではありません。形式の雰囲気程度に)。

学生さんたちはまず、下に並んでいる4つの漢字熟語(始動・原動・運動・活動)の読みをスマホカメラ認識→AIで確認して、別に持っている『語彙リスト』から当該の語を探します。『語彙リスト』には2字の漢字熟語が一覧で載っており、その読み方・簡単な意味の説明(日本語)が書いてあります。その『語彙リスト』に書いてある語の読み方と意味の説明を選択肢それぞれの中に書き写していく。さらにその中から、上の問題の答えにふさわしいものをひとつ選んで埋める。こんな流れです。作業が済むと、以下のようになります。

 

 

そしてそれを、個人作業ではなくグループでやります。グループごとにやらせて、できたら「できました!」と先生を呼ぶ。1番に終わったグループメンバーには平常点にポイント加点。と、こういう流れです。全グループ終わったらみんなで答えをチェック。チェックの中では上の問題(「●」部)の答えだけでなく、選択肢4つについても書き写した意味の説明がちゃんと読めるかな、と確認をしていくんですが、圧巻がここから。

上の問題、自分が作った例は下手くそなので一般日本語の趣が強いですが、問題で選択肢になる語も、『語彙リスト』に含まれる語も、全部自動車整備を学んでいく中で必要になる学ぶ言葉なんですね。なので、この活動を通じて当該の語・読み方・意味を確認することが、自動車・自動車整備という専門分野の理解に繋がるという仕組みです。

おまけに、全体の確認の時に先生が話を膨らませていくんです。

たとえば「粘度」という言葉が出てきたときには、「水とはちみつではどちらが粘度が高いか」という問いかけから、エンジンオイルにも粘度があるという話に繋がり、では寒い地域では粘度の高いオイルと低いオイル、どちらがいいかという質問をし、冷えて固まらないよう、粘度が低いほうがいいよね、という話につなげていく、というような。こうしたちょっとした問いかけ・話の膨らみが、あらゆる語に関して出てくる。

日本語の授業でありながら、自動車整備についての知識も深まっていくという、専門日本語教育の理想形のような授業でした。

やはりこれは「日本語教育だけをずっとやってきた人間」にはできないなあということを、まさにそういう「日本語教育だけ」の自分としては身につまされっぱなしの時間でした。先の記事で「自動車整備のプロが日本語教育のノウハウを備えたら完璧なのでは」みたいなことを書いていましたが、本当にそれが形になったようなものでした。

机をゆっくり押して動かす様子と、ドンッと叩いて同じ動かす様子の2種類を見せて「衝撃」はどっち? と問いかける中にも、「同じ物体を同じ距離動かすからエネルギーは同じ。だけど、掛かった時間は違う」というような説明をなされていて、随所に光る物理・工学の雰囲気もまた、一般的な日本語教育の授業とは違う雰囲気がありました(ちなみにそこから、エアバッグ作動の仕組みについてお話がありました。これもまた面白かった……。先生曰く、エアバッグの展開は火薬による瞬間的な膨張であり、そんなエアバッグに囲まれた状態で車に乗っている我々は「いつもショットガンに狙われているようなもの」だそう。考えたこともなかったですね)。

あと、学生さんたちのレスポンスもすごくよかった。東・東南・南アジア地域出身の26人クラスとなかなかに大所帯で賑やかなんですが、ただただやかましいのではなく、いい意味で「わいわい」していました。これはグループワークを取り入れたり、加点ルールを入れたりと様々な仕掛けづくりをする先生の手腕によるものであり、学生さんの人柄によるものでもあるけれど、その上で、これまでの授業の積み重ねの中できちんとラポールができているんだなあということを思わされました。先生の問いかけにもあれこれと声があがり、先生もそれにどんどん応じて盛り上がっていく。ものすごくいい雰囲気の授業でした。

自分は日本語教育の畑で育って、そこから自動車整備分野に手を出そうとしているわけですが、今回の授業を見て、「日本語の授業って『日本語教師』だけのものじゃないな……」ということをひたすらに考えていました。どうするよ、登録日本語教員にもなって……。

ちなみに③のワークシートは、実際の自動車整備士養成教材に掲載されているグラフから文字情報が虫食いになっているもの。教科書をめくりまくってそのグラフを見つけよう&穴埋めをしよう! という流れ。「とにかく教科書を開かせる」という狙いがあるそうです。はじめの一歩というか、やはりとにかく触れてもらうって大事ですよね……。

 

そんなふうに濃い授業見学をさせて頂いたあとは、その日特別に日産さんが来校して、在校生に向けた特別講義をしてくださるというイベントにもお邪魔させてもらいました。講義のために10台以上が持ち込まれており、それぞれのクルマをじっくり見よう! という活動もされていました。自動車に関する研究をしている以前に普通に車好きの自分としては、同行して頂いた先生にたくさん素人質問をし、ただただ学生さんよりもはしゃいでしまっていたような気もします。写真は、持ち込まれていたGT-R(R35)。エンジン始動の音が思いの外エレガントだった。新型フェアレディZも来ていて、運転席に座らせていただけました。何をしに行ったことやら。

 



そんな具合に、学校見学の日はあっという間に過ぎていきました。

で、ところでなんでそもそも学期の真っ最中に、自分の授業をわざわざ休講にして愛知まで飛んでいったのかということなんですが、実は、こちらの愛知工科大学・同大自動車短期大学は今年度で新入生の募集を停止してしまったんですね。

univ-journal.jp

 

ということで、上に挙げた1年次留学生向けの日本語の授業はこの学期、もっと言えば自分が見せて頂いた回が最終回。そこで、「最後のチャンスに是非観にいらしてください」とお声がけをいただき、ラストチャンスを逃すわけにはいかないぞ、と滑り込みで間に合わせた。こういうわけでした。

学校といえど慈善事業ではなく、やはり経営的判断は(特に私学では)つきものです。昨今の少子高齢化の波はどうしようもない、と言ってしまえばそれまでなんですが、それにしてもやはり、こんなに素晴らしい授業が、もう「ない」の……!??! いや、それ以上に、世間では自動車整備士自体が不足している、そんな中で日本人・外国人に限らず養成期間が閉じてしまうの……!?????

というのは、なかなか感傷的につらいことでもあり、社会的にもなかなか大きなインパクトのあるものです。というわけで、「こんな授業を見せて頂いた!」という今回のブログ記事も、ややしっかりめに書かせていただきました。こんな取り組みがあったんだよ、ということはやはり書き残しておきたかった。

あらためましてお世話になった先生方、学生の皆さん、本当にありがとうございました。

 

おまけ

前回は蒲郡名物ガマゴリうどんをいただきましたが、今回はお隣の豊橋市に足を伸ばして、豊橋カレーうどんを頂いてきました。カレーうどんの中にとろろごはんが入っているという謎の二段(三段?)構え。名産(全国シェアの約50%らしい)のうずらの卵も入っていて、1杯でなるほど満腹です。おいしゅうございました!

 

『入門 デジタルメディアの言語研究』をいただいたので、VRChat(NAGiSA)の話

『入門 デジタルメディアの言語研究』(デジタルコミュニケーション研究会編、ひつじ書房)を、共著者のおひとりである新山聖也さんからいただきました。ありがとうございます!

 

 

多くの人の関心があるだろうし、何よりものすごく研究の可能性があるだろう領域という、いかにもホットなテーマだよなあー。と思いつつ本を開いてみたんですが、思いの外しっかりとしていた。いや、ナメていたわけではないんですよ。ないんですが。自分の興味関心はもう少し「その先」の応用というか、枝分かれしていった個別研究の有り様でどういう物があるかな、みたいなところにあったんですが、この本はそれだけではなく、「デジタルメディアが絡んだコミュニケーション研究をするとはどういうことか」ということを一歩一歩確かめるように寄り添ってくれる、そういう本だなと思いました。まさに「入門」ですね。看板に偽りなし。どうしても一足飛びに考えを飛ばしてしまいそうなところを、ちゃんと確認してくれる。新しい領域を開拓するとはこういうことか、ということを思い知らされました。

しかし「デジタルコミニュケーション」というもの、こう言ってしまうと仰々しいような気もしますが、今この時代にコミュニケーションを見つめようとするとむしろデジタルコミュニケーションの方が多いのではないか(言いすぎ? 人によると言ってしまえばそれまでですが)とも思います。言い換えると、今の時代に行われている「コミュニケーション」を見つめようとすると自然にデジタルメディアのコミュニケーション研究に足を突っ込んでいくようになってしまっているのではないでしょうか。そうなってくると、この本において注目される「デジタルメディアのコミュニケーション」と「それ以前のコミュニケーション」はどう違うのか。また、デジタルコミュニケーションの在り方にも色々な違いがあるはずで、おそらくその違いそのものをしっかりと議論してゆくべきなんでしょうね。この記事では後にもこの話が出てきます。

 

というわけで、自分の話をします。ちょうどまとめておきたかったVRChatの話。これもまたひとつのデジタルメディアということで。

VRChat(注)自体はだいぶ前、もう5年くらい前に始めていたんですが、正直、あまり足が向いていなかった。1年に1回入ってみるくらい。

なぜかというと、「知り合いを作る」のが無理だったんですよね。というか「知らない人が集まっている空間に飛び込んでおしゃべりをして知り合いを作る」のって……無理やん????????? みたいな。

それが、ここのところとあるワールドに入ってみて認識が変わりました。NAGiSA(なぎさ)というワールドです。

基本的にVRChatのワールドというのはデカいひとつの空間なわけですが、このNAGiSAというワールドは、もちろんシステム上はデカいひとつの空間なんですが、その中で別のユーザーと強制的に1対1にさせられます。例えるなら、Zoomで2人ずつのブレイクアウトルームに放り込まれるようなもの。そんで、制限時間は5分です。5分の間に、知らない人とサシでおしゃべりをし、5分経ったらシャッフルされ、また知らない人と5分おしゃべりをさせられる。それが延々続く。

一体何が楽しいんだ、と思われる方もいらっしゃるかもしれませんが、これが、面白いんですねえ。おしゃべり自体も面白いし、もう少しメタに、そういう「知らない人と急にコミュニケーションを取らされる、しかも時間制限付き」という状況で人がどう振る舞うのか、というのも面白い。

一応、自分の横に名前と、自己紹介がわりのキーワード3つを並べることは可能です。自由記述ではなく選択式。趣味やざっくりとした属性。「サッカー」「ゲーム」「音楽」「お酒」「学生」「社会人」など。それを見て「サッカー好きなんですか?」のように話を始めることもできるけど、聞いたところでこちらがサッカーについて何も言えないと、うまく広がらない。ではどうやって広げるか……というトレーニング感もあります。

その他は、週末だったら「今日お休みですか?」とか、相手のアバターが面白かったらそれに触れてみる(話題にする、という意味の方)とか。

何がいいって、このワールドに入ってきてるということは「知らない人とおしゃべりをする気が比較的強くある」というのが前提になっているんですよね。これが大きい。

さっきも書いたように、VRChatというのはただ「空間」が用意されているだけで、人によっては1人でうろうろしたいだけだったり、既に仲良しグループができていたりする(だいたいこれ)。そこで知らない人に「おーっす」なんて声なんか掛けられるわけがあるでしょうか。ありません(個人の感想です)。

そうした「はじめまして」のハードルがだいぶ低くなっている。おまけに5分の時間制限も、逆に「5分経てば終わる」と気楽な方に作用する。VRChatで人とコミュニケーションは取ってみたいけど「おーっす」は無理……な人間にとって、インスタントなコミュニケーションを楽しめるちょうどいいワールドです。5分間の中でそういう「NAGiSAっていいよね」という話になることもあるんですが、こういう意見の人はけっこう多め。

コミュニケーションの取り方も色々ですね。本当に人によって様々。あまりここで細々書き記すことはしませんが、本当に勉強になります。高校生らしい人が「てか俺体操服学校に忘れたわwww」と言ってきたときはすごく高校生のコミュニケーションっぽい! そして自分はもうそういうコミュニケーションをする(できる)人間じゃない! というのをひしひしと感じて楽しくなりました。

そういうふうに、高校生と出会うこともあるし、大学生と出会うこともあります。ここでの大事なことのもうひとつは(NAGiSAにかかわらずVRChat全体に関わる話かと思いますが)コミュニケーションにおいて実世界での属性が完全には反映されないことなんですね。もちろん声を聞いたらなんとなく若いとか年上っぽいとか、男性っぽいとか女性っぽいとかくらいは分かりますが(もちろん声が男/女ぽいからどうした、という話ではある)。姿形はアバターですし、声だってボイスチェンジャーで変えている可能性がありますもんね。

もちろん実世界で人と会って話す時にそういう事はできません。「人は見た目がn割」(nは任意の整数)ではないですが、予断が入るし、それによってコミュニケーションになんらかの調整が入る。しかしそういう属性による云々がない場でのコミュニケーションなわけです。でも、話していくとな―んだか、相手と自分の間でのバランスが取れていく感じがある(たまに、それがどうしようもなくぎこちないときもある)。実世界とはなんとなく手触りの違うコミュニケーション。果たして我々は何をもってこのVR世界におけるコミュニケーションでの「バランスを取っている」のか。どういう情報が使用される/されないのか(「後で」はここのことでした)(実世界の対面とは違うスピードで、対話を重ねた自己開示の結果としてじわじわ調整がなされていくような感じもあります。マイルドに平和的に「マウントを取り合っている」ような。違うかな)。そういうことを色々考えてみると面白いですよ~~~~。とはいえ、実際に自分がコミュニケーションの矢面にいる中で同時に考えをめぐらせるのはなかなか難しくもありますが。

まあ、実際にそれで研究をしようとするとなかなか難しいんだろうとは思います。基本的に実世界の名前は使われないし、そもそもインスタントな出会いの場だし。研究倫理的な意味でなかなかどうして色々と難しそう。それでも、色々と「これもまたひとつのコミュニケーションのかたちなんだな……」と思わされる、経験だけでも実りの多い場所です。

ちなみに、最近は「ひまり旅館」にも入り浸って(そこで仕事をして)います……。この話はまた別の機会に(できるかな?)

 

注:VRChatというのは、仮想現実空間(VR空間)で色々なことができる、というゲームです。出会う人はそれぞれがインターネット経由で接続している生きた人間ですが、もちろんVRの世界では生身の姿ではなく、ケモ耳少女とかロボットとかサカバンバスピスとか、自由な姿(アバター)をしています。VRChatはひとつの広大な空間ではなく、それぞれのコンセプトによって作られたたっっっっくさんの空間(ワールド)に分かれています。

長崎テュルク・イベントの話&自分も何かやりたいな、の話

活水女子大学で開催された「ユーラシアをつなぐことば テュルクの言語と文化」(主宰:活水女子大学国際文化学部)に行ってきました!

 

活水女子大。シャレちらかしている

 

 

主宰の吉村先生をはじめ、錚々たるメンバー。「長崎でテュルクに関する催し物は初めてなんじゃないか」という歴史的意義が各登壇者から何度も強調されていましたが、本当にそうだと思う。きっと。チュヴァシ語の音声が流れ、タタール語の曲が流れていました。ものすごい空間だった。

皮肉というか不思議なもので。かつて長崎と言えば、外国の文化風俗がまず入ってくる土地でした。「楽しみを求めるに京都を羨む必要もない」とまで言われたものですのに、いつの間にか、少子高齢化の憂き目にさらされる最前線の一地方都市になってしまった……。

長崎・山里・淵村あわせて3、400石しかなく、人口5万をやしなうことはできないが、「華夷(かい;外国)」の船の商売で20万金もあるので、家は4,000、竈は10,000に及ぶ。魚・野菜・鳥・獣肉、中国のお菓子、外国の珍しい菓子がゆたかにある。唐人の音楽が流れ、きれいな布や刺繍は目をよろこばす。いい書や絵があり、詩もできる、歌もできる、中国風・西欧風の工芸品も多い。楽しみを求めるに、京都をうらやむ必要はない。ただし、世界中、いろいろと思いがあり、人々が忙しいのは今の時代のこと、京都の人も多くやってくる。

西川如見『長崎夜話草』

引用は増﨑英明編著、長崎大学地域文化研究会著(2021)『今と昔の長崎に遊ぶ』九州大学出版会 pp.35-36

 

しかしこのイベント、なんとも大盛況でありました。直前に会場が大きな教室に変更されたりして。そんな大教室も、来場者でいっぱい。

しかも、ただ人が多いだけでなく、みなさま本当に「テュルク(の文化・ことば)」に関心が高い様子(そうでなきゃ来ないやろ、というのはおいておいて)。登壇者の「〇〇ってご存知ですか~知ってる方~」という問いにもばんばん手が挙がっていらした。

来場者の年齢層は、平均はなんとなく高めかな~~~といった感じでしたが、それでも、大学生やさらにその下の世代など若い世代も含めて幅広い年代の方がいらっしゃっていました。このあたり(長崎市)からの人がどのくらいか、などはさすがにわかりませんが、ともかくも、長崎市で行われるイベントにこんなに足を運んでくださる人がいるんだ、ということもまた学びでありました。

となると、やはり、考えてしまうわけです。「自分でもなにか、できるのではないか……?」ということが。というか、「人、来てくれるのではないか……?」ということが。

まあ、ぶっちゃけ、長崎に縁もゆかりも無い人間なわけです。自分は。福岡生まれなので、小学校の修学旅行では来たけど。着任で長崎大にやってきて2年と少し、ほんのりと長崎で抱く「あれがない」「これがない」と思う感覚が理解できてきました。もちろん色々と楽しもうと思ったら楽しめるんですが、大勢として、やっぱり東京や大阪、近隣では福岡に「流れて」しまう感覚は分かるような気がする。

でもでもやっぱり、だんだんとこの土地のことがわかってきただけに、「つまんねー」という方に「いや、長崎も面白いことあるよ!」と伝えることに貢献したい気持ちが出てきた。それは歴史や文化について情報を再発信するということもあるけど、「自分でコンテンツとなる」ということも可能なはず。うまくネタを準備できれば、そして、きちんと広報をすれば。「面白そう」と思って来てくださる方、いるのではないでしょうか。

言ってしまえばヨソのイベントに触発されて1人で熱くなってしまっているというだけではありますが、それでも、自分のできる範囲ででも、少しでも、何かやりたいな~~~~~! 自分が今いる場所のために~~~~~!!! と思わされた1日でありました。

 

P.S. 自分もロシア留学時代にタタールスタンに旅行に行ったりしていたのですが、なんと同じ時期に、今回の登壇者のおひとりがまさにタタールスタンにいらっしゃっていたそう。世界せま